大蛇と影を重ねて/ポッポ
あいだ、感覚が閉鎖されているような気がして、僕はピアノを弾けずにいた。
今、ピアノの前に置かれたイスに座り、鍵盤へ指を載せている。でも、音を出すまでには勇気が必要だった。
いつもなら僕がピアノを弾こうとすると、急かすように鍵盤を睨むヒレンクターが、それをしない。ここ三日間、一日に五回ほど起こっている例の症状のせいで調子が乗らないみたいだ。僕が鍵盤に指をかざしてみても、ぼんやりした様子で眼を向け、すぐに視線を外すというようなことが繰り返し続いている。
……でも、このまま弾かないわけにはいかない……。
いちどだけ深呼吸したあと、僕はとうとうピアノを弾きはじめる――。ヒレンクターは鍵盤を
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