錆びた三輪車は深いよどみの中へ走る/ホロウ・シカエルボク
不思議なほどに気持ちは落ち着いていた
子供の口は骨まで砕かれたように裂けていたのだ
「ここにはいないよ」と俺は言った
そして
迷子に構うように子供の頭に手を置いた
手のひらには確かに感触があった
「君はもう死んでる」
子供は悲しそうな目になり
首を横に振った
「身体を見てごらん」
子供は身体を見ずにもう一度首を横に振った
まあ、無理もない
俺だっていつかこんな風にどこかでさまようかもしれない
「悪いけどおじさんは君のパパのことは知らないんだ」
判ってた、というような顔で子供は頷いた
「悪いけどもう行かなくちゃ」
子供はまた頷いた
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