錆びた三輪車は深いよどみの中へ走る/ホロウ・シカエルボク
周囲が入れ替わるような奇妙な感覚があり
その感覚は軽い眩暈を呼んだ
少しの間目を閉じてそれから開けると
三輪車の向かい側に
血まみれで
肌の下の組織をあちこちからはみ出させた子供が
ハンドルに手をかけて俺のことを見ていた
子供は
切り刻まれていることすら気づいてないみたいに見えた
俺たちは長いこと三輪車を挟んで向かいあった
やがて
子供は瓦礫の中から白い石を拾い
形の変わった胴体を苦労して屈めながら
足元の
基礎コンクリに「パパ」と書いた
そして
再び三輪車にを挟んで俺と向かい合った
(そうか、喋れないのだ)
と俺は思った
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