さようなら、過ぎ去った日々よ/ホロウ・シカエルボク
ら
指先は頭蓋骨の運命的な硬さを確かめるのだ
こんなおぞましい景色に春などと名前をつけたのはどこの誰なんだ
おれはそいつの襟をぎりぎりと締め上げてしまいたい衝動にかられる、だけどもうそいつはとっくの昔に死んでしまっている
春!春よ!おれは背もたれに身を沈めながら―クレープの皮みたいな実感の身を沈めながら―
蓋の少し開いた
まだ空の棺桶のような空気を湛えた春に向けて声を上げるのだ
「春よ、おれの言葉のことをおまえは記憶しているだろうか?」
春は答えることはない
思考の度が過ぎたとろけた脳髄には
それが春であるのかなんて実際のところはっきりとは分からない
ただの生身の肉体に春など
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