The Man From 70's/salco
夫は茶の間の隅で大の字の高鼾、腹を蹴ったことも覚えていないだろう
いつもの言い合いだったのだ、今日は外で嫌な思いをしたのかも知れな
い
希望を持ってはいけなかったのだ 我が子を抱けば奮起するだろうなん
て、来てもいない明日に暮らしてはいけなかった
もう臨月に入っている この上は充分に育った赤ん坊が無事に生まれ出
るのを祈るしかない
でも、母親がいなくなるとしたらこの子はどうなるのか
高は知れている。
うれしそうに寝ている男を見やって思った。それなら連れて行った方が
いい
それで廊下の電話台まで這う考えを捨てた。もう痛みは感じない。
ただ寒いのだった。8月なのに変よね、と
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