そのベンチに置かれた一対の革靴について/瑠王
うになった
僕は君の窓を訪れることをやめ
この街を離れてしまった
それからもずっと僕はこの靴を履き続けた
黒い革が艶を失う度に何度も磨いて
でも今こうして
あの頃のベンチに一人で座ってまじまじと見てみると
やはりもうボロボロだ
君とこのベンチで話し始めたあの冬から
僕はこの靴を履くようになった
まだ硬くて足をよく痛めたのを覚えている
いや、本当は靴の話なんてどうだっていいんだ
"愛してる"という度に
嘘をついてる気分に苛まれる
そんな男が愛を語ろうなんてふざけた話だろう
ただあの頃は、
嘘をついた気分になんて決してならなかった
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