帰れない/
 
れない扉がある
鍵はどうにも錆び付いてしまって
六月になる度に曖昧な思い出だけが
壊れたビデオテープのように再生させられ
ため息でかき消して生きてきた



語るものなんてない
語れるような学問もないのだけれど
僕は確かに生きてきたのだ
忘れないでとは言わないから
この夜だけは聴いて欲しい

あれからもう何十年も経ったよ

それでもほら、
今だって自分でも呆れるくらいに

こんなにも寂しいのだ

温かくて幸せなのに

こんなにも寂しいんだよ



皆帰っていった

僕は何処に帰れば良かった?

ドルの島
左ハンドルの暑い島には

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