帰れない/依
れない扉がある
鍵はどうにも錆び付いてしまって
六月になる度に曖昧な思い出だけが
壊れたビデオテープのように再生させられ
ため息でかき消して生きてきた
□
語るものなんてない
語れるような学問もないのだけれど
僕は確かに生きてきたのだ
忘れないでとは言わないから
この夜だけは聴いて欲しい
あれからもう何十年も経ったよ
それでもほら、
今だって自分でも呆れるくらいに
こんなにも寂しいのだ
温かくて幸せなのに
こんなにも寂しいんだよ
□
皆帰っていった
僕は何処に帰れば良かった?
ドルの島
左ハンドルの暑い島には
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