労働/攝津正
そんな簡単な事が分からなかった。
死ねば全ての知覚と記憶が断ち切られるのか。
死ねば世界が無くなるのか。但し自分にとってだけ。
攝津には当然ながら、当たり前に過ぎるこれらの問に答えられなかった。それでいて、もう生きるのは無理だ、死ぬしかない、と思い詰めているのである。
お金が無い。働くのも無理だ。生きられない。
自立など出来ない。
単に苦しい。胸や肩が痛い。
親は馬鹿にして、死ねるものか、と突き放してくる。悔しいが、実際死ねない。死ぬ勇気がどうしても出て来ない。
親は攝津を禁治産者にするとか、相続を放棄させるとか、出て行って貰う等と言っていた。攝津は、太宰治の『人間
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