労働/攝津正
ではあるまいか。事故、病気、災害等で死ぬのは怖いのではあるまいか。そういう状況になったら、じたばた、あたふたしてしまうのではあるまいか。美しく見事に死ぬなどは幻想に過ぎぬのではないか。攝津はそう考えた。自らの「人間的な、余りに人間的な」死の恐怖が、ひどくありふれて凡庸なので、自分の凡人ぶりが際立つのを感じ、攝津はぞっとした。だが、攝津が凡人であるというのは紛れも無い事実であった。攝津には何か特別な所や変った所は何も無かった。生存を苦しいと思い、しかし死ぬのを恐れる、単なる凡人、それが攝津の現実の姿だった。死にたい、死にたい、と言っても自殺未遂の一度すらした事が無いし、これからも無いであろう。自殺未
[次のページ]
戻る 編 削 Point(2)