労働/攝津正
 
殺未遂をしないというのは、成る程良い事であるには違いないが、死を本気にしていないという事の証しでもあった。攝津は手首自傷すら痛みが怖くて出来なかった。オーバードーズも馬鹿げた結果に終るのが分かっているのでしなかった。攝津は優秀な患者であった。優等生だった。だが、それは攝津が凡庸であるという事実の証明に過ぎなかった。

 Cafe LETSはあかねみたいな空間を二和向台に、と始めた物だったが客は全く来ず、JASRACと保健所が調査に来た。攝津はげんなりしてあっさり辞めてしまった。これまで攝津が起業したのは、花屋、古本屋、そしてCafe LETSがあるがいずれも客が来ず大失敗に終った。攝津は、自分
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