労働/攝津正
 
たりもした。だが、自分を変える事は無理だと思った。何歳になっても喧嘩上等の狂犬であるより他無いと観念した。
 そうは言っても攝津とて弱い人間であり、独りで生き抜く事など出来ぬ。単独者、唯一者として自己を貫徹する事など出来ぬ。攝津は或る日入浴しながら、嘘でもいいから自分の音楽を良いと言ってくれる人が世界に二人だけであれ必要だ、と独り考えたが、それは世間で言う承認欲求という物だろうか。突っ張っていても、誰かに認められたい、褒められたい心がまだあるのか。攝津は、悟りを開けぬ自己の弱さを自ら嘲った。
 攝津は表現者として、無給であれ生きていきたいと思ったが、お金はなくとも一種の名誉、誇り、肯定が必要だ
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