労働/攝津正
 

 攝津は八時間弱働いて帰宅した。電車の中で安部公房の『壁』を開いてみるが、よく分からぬ。本当に夢の世界のような文章である。
 攝津は京都に住む杉原さんという人と連絡を取ろうとしていた。杉原さんはNAMの三代目の事務局長で、NAMの為に献身した人である。前田さんと共に資本論を読む会を作ろうという事になり、杉原さんにアドバイザーとして入って貰いたい、というのが攝津の言い分であった。杉原さんはマルクスに詳しい人だったので。攝津は八方手を尽くしたが杉原さんの連絡先は遂に分からなかった。これも運命、と諦めた。
 攝津は中国の広州で大学教員として働いている倉数さんとたまにチャットする。倉数さんは文学研究
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