労働/攝津正
なければならない。学習をやり遂げるより他あるまい。攝津はまた憂鬱になった。
攝津は津軽三味線をやっていたが、一日八時間の労働を始めてから疲労のため辞めていた。もう半年程も楽器を手にしていない。今の仕事を続けながら三味線を弾くのは無理だ、と攝津は思っていた。今の仕事をずっと続けるならば、三味線自体を辞めねばならぬ事になる。練習時間が取れぬ。月謝が払えぬ。これまた攝津を憂鬱にさせた。生の豊かさがまた一つ自分から奪われる! 津軽三味線の演奏は自分にとってかけがえの無い営為であったのに、それが出来なくなる! その代わり、簿記だのパソコン検定だのの勉強をしなければならぬ! 攝津は泣きたかった。
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