はなび/木屋 亞万
 
どれも使用済みで風雨にさらされて黒ずんでいた
ライターの火がなくても辺りを見渡せるほど明るくなってきて
男は自分の見える範囲にハナビらしきものはないということに気付いた
そして、女のところに戻ろうと思い、元居た場所へと引き返した
女はまだいた、倒されたままのマネキンのように波に平行に横たわっている
顔を覗きこむと目は開いていて、男を視界に見つけるとhanabiと呟いた
なかったんだ、ごめんな、と男は呟いた
女は三度瞬きをして目を閉じた
朝日が水平線から頭を出そうとしていた

朝が来た
空は驚くべき速度で塗り替えられ、
多くの人々にとって平凡な夜は平凡な朝へと移り変わっていく
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