はなび/木屋 亞万
いく
男は朝日が生まれ昇る速度に驚きながら、太陽をおもしろいくらい凝視していた
彼の瞳は太陽の強烈な光線に攻撃され、防護まぶたが降ろされた
男がもう一度目を開けて、痛めた目が正常な視野を取り戻すまでにわずかな時間がかかった
男が足元を見やると女は氷付けのジュゴンになっていた
おい、と言って抱き起こすと胸の所から2つのリンゴが零れ落ちた
男はそのリンゴを左右の手に取り、思いきり握り締めた
ハナビのようにリンゴを弾けさせる姿を思い描きながら、
それほどの握力は持ち合わせておらず、
自分の車へと戻った
座席に腰掛け、自分の服を紛失したことなど全く気にせずに
足をハンドルに乗せ、右手のリンゴを噛んだ
口を最大まで広げて、できる限り大きなひと口で噛んだ
リンゴはみずみずしく、ひんやりとしていて
男は両目から、控えめな彗星のような涙を一粒ずつだけ流した
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