はなび/木屋 亞万
 
はコンクリートの壁を越えて砂浜に入った
暗すぎて女が裸であることが見えないのなら、女が裸である意味はないなと男は思った
と同時に、誰にも自分の姿が見えないのなら、自分が服を着ている必要もないと思った
男は服を脱ぎ捨て、裸にジッポーひとつを持って女と歩いた
男はさりげなく女と手をつないだ
足が海水に触れた
女に抱きついて、砂浜に倒れこんだ
女の手足も自分の手足も冷えていたが抱き合えば温かかった
海水の冷たさは痛いほどであったが、女の髪が波に揺れてふわふわと漂っている様は
何ものにも変えがたい美しさがあった
女を抱きしめているあいだに、砂浜に置いておいたジッポーが倒れて消えてしまっ
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