はなび/木屋 亞万
 
女の膝を隠している衣服が不要であるならば後部座席に押しやりたくてそう言った
女は男の声など聞こえないと言う風に道路が切り取る短い地平線を見つめている
着ないのなら後ろに置いておくといい、と言いながら
左手で膝の上から服を取り除き、後部座席へ放った
それは紺色のワンピースとベージュのカーディガンであるように思えた
女の白くふくよかな太ももが露わになった
男はますます前を見なくなった

男がそれからどれだけ女に話しかけても女は何も答えなかった
やがて海に着いた、
男は長くドライブするために、道に迷うための努力をしたが、
この国は海に囲まれているので結局は海に出てしまったのだった
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