緑に覆われた世界を垣間見た。/影山影司
 
ちまいたいんだ、という顔つきだった。雨は未だ止みそうに無く、ため息を吐くと「酒、一杯おごってもらえませんか」とぶっきらぼうな声。店内にいたもう一人の客だった。髪も髭も、千切れるに任せて伸ばしっぱなしの不精男だ。
「雨が降ると」 「雨が降ると、酒を飲まずにはやってられない」
 男の顔色は悪かった。もっとも、こんな所にいる人間など、皆それぞれの理由で顔つきだの顔色は悪いものだが。
「特に」 「こんな大粒の雨の日だと、ウォッカがいい」
「ウォッカ以外は?」
「ズブロッカ」
「ウォッカ漬けの薬草じゃないか」

 男は自分の身分を名乗らなかった。
 ただ、一言、ウォッカだ、ウォッカだ、と繰
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