「えいえん 佳子1997 冬」「鳥の唄 2000 冬」全面改定版/ダーザイン
 





「鳥の唄 2000 冬」増補改訂版 武田聡人


 屋上駐車場のフェンスを警備員の目を盗んで乗り越えた。着地地点に塵埃が舞い立ち、足下を見ると黒光りする無数の微小な砂礫がある。これらの塵埃はどうやってこのような高所まで運ばれてくるのだろう。ボイラーの煤煙だろか、或いは夜毎、人知れず宇宙塵が降り積もっているのだろうか。物置の陰に回り、べたりと座り込んで下を見下ろす。時節はずれに激しく降り積もった昨夜の雪が日中の暖気で溶け出し、川のようになった道を車が水跡を引いて通り過ぎていく。
 灰色の谷間の中に鮮やかな桜色の帽子がひとつ、流れに逆らうように北上していくのが目に止まった。
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