アスラエル/チアーヌ
 

「しばらくじゃないんだ。ちょっと、なんですね」
 俺はなんだかおかしかった。
 こんなことを言う看護師は今までいなかった。
 でもほんとうは、こんな風に普通に、残り少ない日々のことを誰かと話したかったのだと俺は思った。
「それじゃ、おやすみなさい」
 看護師はカーテンを閉めると、再び斜め向かいの男のところに戻っていった。
 俺はなんだか気になって、またそっとカーテンの隙間からのぞいた。
 看護師は男になにやら話しかけると、男の頭のほうに回った。
 すると、部屋の中にゴトン、という重い音が響いた。
 看護師は、ベッドを壁から外したのだった。
 どこでもそうなのか、ここだけな
[次のページ]
戻る   Point(2)