【批評祭参加作品】失われた「鈴子」を求めて/香瀬
 
たような気分で階段を上り続けていると、山林からは鈴虫の音が聞こえて、それは上れば上るほど大きくなってくるようだった。

 あたしは自分の名前がわかんないけど、忘れているから覚えなきゃいけないのかな。「わたし」は「もう覚えることをしたく」ないらしいんだけど、それってなんでだろう。「うしろからいつも逃げたくなる人」って順番に並んだ列の最後尾から逃げたくなる人のことか知らん、過去から逃げたくなる人のことか知らん。なんも知らん。「やさしい挨拶」だってなんも知らん。

 リンリン、リンリン、リンリリン、
 リンリン、リンリン、リンリリン、

 「わたしの家には出口が一つしかありません」ので、「
[次のページ]
[グループ]
戻る   Point(15)