【批評祭参加作品】失われた「鈴子」を求めて/香瀬
 

 おっさんは「町田の町子さん、病気です」と繰り返すので「医者」なのだろう、あたしは「町子さん」ではないので病気ではないけれど、じゃあ誰って言われてもわかんない。たぶん「わたし」もわかんないから、「こわれかけたビデオデッキ」はそんな風にわかんない人たちを示していて、病院の待合室はだいたいみんなわかんない人たちで、「再生している映画」はどうせ昔話に過ぎないのだから、カラフルってよりセピア色だろうと思う。

 どんどんお月様は南の空へ、だんだん夜が不思議に明るくなって、星とか犬とか鈴虫とか落ちてくるんじゃないかな。あたしはたぶんもう「ジョン」って言われても反応しないと思うけど、固有名詞をなくしたよ
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