【批評祭参加作品】迷子論序説/岡部淳太郎
 
きられず、時には無秩序な混乱に身を投じてしまいたくなることがある。そうでなければ精神のバランスを保てないからだ。秩序と制度の中に生き、それらによって生かされていながら、人は時にそれらを忌避する。道に迷うことは、人の持つそうした潜在的な欲求を刺激するのだ。しかしながら、それは計画的に得られるものではない。前章で述べたような「意志的な迷子」では、それは得られない。何故なら、迷子になることによる陶酔は常に不安とセットになって顕現するものであり、そうであるからには、計画的にではなく偶然性の中で迷子にならなければならないのだ。最初は秩序の中での歩行、目的地への移動であったものが、ある偶然によって秩序から滑り
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