【批評祭参加作品】迷子論序説/岡部淳太郎
 
開されるということは、それは他者が介在しないどこまでもひとりきりの体験であり、一時的にであれ主体が世界そのものとなる(少なくとも、そのような錯覚を惹き起こす)状況をつくり出す。だからこそ、それは主体の精神を陶酔させるのだ。つけ加えるならば、迷子の状態に陥ることは制度からの一時的な離脱である。計画通りに目的地まで進んでたどりつくのは秩序に沿った行為であり、制度の枠内だけで完遂されるものだ。だが、道に迷うのは秩序から混沌へと陥ってしまうことであり、人がそのような状態になることを制度は望んでいない。つまり、迷子になること自体が制度への反旗という側面を含んでいるのであり、人は徹頭徹尾制度の中だけでは生きら
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