【批評祭参加作品】迷子論序説/岡部淳太郎
てまっしぐらに突き進むだけしか取り得のない「歩行の意志」は、その価値観を自らの裏側から問い直されているのであり、それを繰り返すことによって、陰陽合わせてひとつとなった歩行の足音は大きくなってゆくのだ。
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ここで少し個人的な話をする。幼い頃、私はよく道に迷った。正月に親戚の家に行った折、お年玉をもらってうきうきした気分で街中を歩き回っては迷ったり、保育園を脱け出してひとりでさまよっては大人たちを心配させたりしていた。そうして迷いながらも、なぜか迷っていることそのものに陶酔していたような気がする。私の中に残っている迷子の原風景とはこのようなものであり、不安でありながらもどこか未知の世
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