滑った感じ/八男(はちおとこ)
。何かあったとき、いつもおっさんは、きっとこの煙草を吸って、自分を取り戻すのだろう。きっと、おっさんの理想とする完全体にはほど遠いのだろう。おっさんは、本当は寡黙なだけで、ずっと貫き通してきたのかもしれない。十年前、思いきって変えたキャラクターが、たまたま私と意気投合し、そこに真の自己があるという幻想を抱き続け、職場では表現できない自己とは仮のもので、本当の姿は中国で、私と過ごした短い時間の自分なんだと、言い聞かせてきたのではなかろうか。そんな考えを支えにして、いままで生きてきたけど、あれは夢でしかなかったんだな。あのときの状況が、麻薬みたいに一時、自分を変えただけなんだ。もう、自然な形で、あのテ
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