滑った感じ/八男(はちおとこ)
 
ループが始めだしても、どうにも落ち着いてしまったのだからしょうがない。一緒になって飛んだり跳ねたりはできないのだ。静かな、一客として、勇姿を見守り、また、楽しむだけである。だからそんなおっさんを、静かに楽しんでいた。
 しかし、おっさんの心裏とはいうとそうではなく、私のテンションとのギャップに苦しんでいた。十年前なら共演でき、キャッチボールになって成立していた関係が、私が一客である以上、おっさんが芸人でなくては関係が持たない。少なくとも、おっさんは、そう思い込み、追い詰められていた。
 
 「一服させてもらうで」
 
 おっさんは、煙草を吸い出した。なんとかこの時間を凌ごうとしていた。何
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