滑った感じ/八男(はちおとこ)
と諦めた。
「そ、そうかぁー!うまいかぁー!」
めちゃくちゃ嬉しい顔になった。それは昭和なつかしの嬉しい顔だった。土門拳の写真のようだった。
かなり体があたたまってきて、たまりきった熱気を放出したくなって、外に出てみた。一緒に出ましょうとは言わなかったけど、おっさんも出てきた。しばらくは冷えきらないほど、私の体はティピの中で、あたたまっていた。湯たんぽ人間二人、空を見上げた。雲がぽっかり。空は青かった。さっきまで上空を包んでいた曇りの大陸は、遠くの空へと移動していた。
おっさんは私がどこかへ逃亡するとでも思ったのだろうか。なにか見張りでもしているかのように私についてきた
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