滑った感じ/八男(はちおとこ)
のが精一杯だった。しかしその話に惹き付ける力があって、退屈しなかった。練習したんじゃないかというほど巧く、古典落語を聞いているような感覚だった。とくにおっさんの持論で、オレオレ詐欺は日本国民に警戒心を身につけるための、いいトレーニングになっているという発想は面白かった。ただ、おっさんが普段何をしているのか、仕事の事とか、そんな話に切り出そうとしても、そういう間がなかった。プロじゃないから入れなかった。私はおっさんの話を展開することはできても、転換させることはできなかった。しかしそれは十年前も同じ事で、もともと、おっさんとは、勢いそのもので、上がったテンションが着物を着ているといった感じだった。
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