滑った感じ/八男(はちおとこ)
 
ぼに隣接する村を一周してみた。ハァハァと白い息を吐いては冷気を吸い、冷気が肺に直で入ってくるので、まるで肺の全面にメンソレータムでも塗っているかのようにひんやりした。嬉しくって嬉しくって、ただ走った。何か私一人だけとてつもない幸福を抱えているかのような、特別な存在のように思った。歩いている村びととすれ違ったとき、私はその村びとに対して、エリート意識のような空気をぶつけた。私はおっさんに会いに行く階級だと思った。しかし、ただ走っているだけで、すれ違う村びとたちを、土門拳の写真の中の人のように、こっちに引っぱり出してくるのは不可能のように思えた。おそらく、私を見て、どの村びとも「エリートが走っている」
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