R/有邑空玖
 

「死にたい訳じゃない。死にたい訳じゃない。死にたい……」呪いの様に口の中で呟きながら、丁寧に傷を増やす。血が湧き出る。痛みが走る。塞がり掛けて居た昨夜の傷からも、まだ血は溢れ続ける。


(しかし、生者が其処へ行く事は不可能と知れよ。生者と死者は相容れぬ境界で隔てられて居るのだ。過去よりも近く、未来よりも遠い境界線)


 傷口に包帯を施す。オキシドールの染み込んだガーゼを宛がい、真新しい真っ白な(あの病院のかつてのカーテンよりも目映い)包帯を丹念に巻く。そうして居る時間だけが何よりも幸せで安心出来る。包帯。眼帯。カプセル剤。薬壜。オブラート。ガーゼ。薬品棚。注射器。点滴。アンプル
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