R/有邑空玖
 
ノリウムの廊下は、消毒薬の澱んだ匂いが充満して居た。秋のイメージは、多分そんな所から来て居るのだろう。あたしは、早く此の病院が廃墟に成る事を願い、無人の病棟へ懐(おも)いを馳せる。


 誰も居なく成った病院の夜は、死者の霊が行き場を失って彷徨い続ける。死者達は、生者の生きる場所こそが安住の地なのだ。


 哀れな、
 哀れな死者達。


 しかし……哀れで在る事こそ、死者の条件。


 時折耳許で声がして、あたしは躊躇いつつ左肩越しに振り向く。
 見えるのはあの日の、
 あの日若くして此の世を去ったRの姿。
 額から口許から肩から胸から大腿部から夥しい血を流
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