檸檬/木屋 亞万
く
そして唇に液が触れた瞬間
口の中に檸檬が広がり、その仄かに青く渋い香りを追撃するように
甘い蜜が口内に赤く立ち込めるのだ
そして堰をきったように黄色い香水が流れ込んでくる
舌が粒だった感覚器を痙攣させながら、香りの海に身を沈めて
喉の置くまで芳醇な檸檬に汚染されていく
鼻の中と外をつなぐ二本の匂いのトンネルが開通して
私の顔面は檸檬になる
ホットで飲むならばマグカップは口の小さいものにした方がいいだろう
檸檬は母の家の庭で実っているものにした方がいい
化学肥料も使わず無農薬で育てているから匂いがぐっと強いんだ
舌が、鼻が、目が、耳までもがあの檸檬を求めている
そし
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