花氷り/結城 森士
 
―――春が来るでしょう?春が来て、夏が来て、秋が来て、冬が来るの。何度繰り返したか、分からない。そしてまた、春が来るでしょう?また、雪が解けていくわ。その前に、見せたいものがあるの。宇部森の池には、まだ氷が張っているはずだから………そう言って、

夜の張り詰めた池の上を
静かに歩いていく少女
そうして岸辺の低木の方で
花を摘んでいる風だったのだが
振り返ると少女は右手に
赤い椿の花びらを携えていた
こっちへおいでよ
と笑いながら手招きをしている
私が池の氷におびえていると
少女は右手に赤い椿を持ったまま
嬉しそうに駆けてくるのだ
私は必死に止めたのに
私は必死に止めたの
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