花氷り/結城 森士
たのに
また、私の目の前で
水底に沈んでいってしまうのか
夜通し大勢の大人たちが
町のあちこちを捜索したのだが
結局少女は発見されなかったのだ
私が少女と共に宇部森にいたこと
背後に少女の悲鳴を聞いたことを
母親に打ち明けたところ
少女は初めから存在しなかったのだ
と、何度も何度も言い聞かせられた
あの時、私は少女よりも年下で
今、私は少女よりも随分と年をとった
―――置いていかないで
ある日、
氷が解け、
春が来て、夏が来て、秋が来て、冬が来て、
太陽は沈み、また昇り、
何度繰り返したのだろう
生まれ、朽ちて、
変わらないものは決して無いというのに
すっかり別な人になってしまったのね
なぜなの?
少女は問いかけた
大きな椿の花が
池の上に漂っていた
残された僅かな記憶が
やがて地に墜ち
燐光となって地平線への放物線を描く時
私たちは、静かに眠りの底に落ちていくのだ
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