あの日/草野春心
 

  僕にとって何もかもが
  かなしすぎて
  あの日
  死にたくない
  自分の声が
  どこかに響き続けていてほしい
  そう思い
  願い
  祈った
  ……
  ……「そうかい?」
  「本当にそうかい?」
  「つまりそれは借り物の感傷さ」
  背後で
  そんな声が聞えたのも
  あの日
  あの日だった
  「本当にそうかい?」
  「きみは本当にそれを感じているのかい?」
  ……
  ……あの日
  僕は僕でありしかし僕ではなくそして僕であった
  あの日
  家の中では飼い犬が眠っていて
  母親は誰かと長電話をしていて

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