鍵穴のひと/恋月 ぴの
 
マッチ売りの少女にでもなった気分で
その鍵穴を覗くのがわたしの日課となってしまった

この街へ引っ越してきた当時はタバコ屋さんだったトタン屋根の並び
ちょっとしたお屋敷風の黒塀に
その鍵穴はある

通りすがりのわたしの名を呼ぶ声がして
その声は鍵穴の向こう側から聞こえてくるような気がして

引き寄せられるように覗いてみれば
たっぷりと薪のくべられた暖炉にあかあかと火はともり
ふかふかそうなソファの脇には
わたしの背丈ぐらいありそうなクリスマスツリー飾られていた

誰もいないのかな

しばらく覗いていたけど誰一人現れそうなく
ロマネスク調な天井からシャンデリアまば
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