忘れられない言葉/南波 瑠以
 

 そう言わんばかりに、体を起こそうとするが動かない。というより、まるで自分の体だけがどこか別の場所へ行ってしまったような、そんな感覚に襲われた。大きな一粒の滴が頬を伝って落ちた時、私はようやく事の重大さに気付いた。
とにかく私は、自分の体の所在を明らかにしたかった。
「俺の手…持ち上げて見せて…。」
そう友達に言った後、私の目の前に現れたのは、マメだらけで滑り止めの粉が沢山付いた、紛れもない自分の手だった。
(良かった…体はちゃんと引っ付いているじゃないか…)
私は安心を覚えた。だがその次に現実を突きつけられた。その手は手首から先がだらんと垂れ下がり、力がなかった。首から下の感覚が
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