濁流/within
 
いう事実に、僕の心はじっと動けなくなった。
 祖母も戦後の混乱の中、家計を支えた苦労を語った。
「汽車に乗ってな、闇市まで卵買いに行ったんやで。周りに見つからんよに、風呂敷で隠してな。そらあもう、おとろしかったんやぞ」
 闇市の話は何度も聞かされた。普段、優しく気の細かい祖母が殺気あふれる闇市の人の波にもまれ、列車に揺られている姿を想像すると痛々しくもあり、皆が生き残ることに必死だった時代の空気の残滓を吸っているような思持ちになった。

 元気だった祖父も晩年には膀胱癌を患い、不自由な生活を強いられ、冬も夏も炬燵に足を突っ込み、横になってばかりの生活で、僕も時折母の作ったおかずを持って訪
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