濁流/within
用事がある度に、金魚の糞のように後ろに付いて訪ねるようになった。そんな僕に祖母は
「おうおう、顔を忘れよったが」
と、お茶を出してくれ、炬燵に座っている祖父は、決まって
「まあ座れや」
と言って、僕の目を覗き込むように顔を見た。所在無い僕が、隅のほうで座っていると
「そなんところにおらんと、炬燵に入れ、入れ」
と手招きした。
その頃に聞かされたのだが、祖父は原爆の落とされたヒロシマの町に、投下された翌日、訪れたそうである。詳しくは語らなかったが、焼け焦げ爛れた放射能に侵された街を歩き、もしかしたら祖父は被爆していたのかもしれない。語られはしないが、あの時のヒロシマにいたという
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