一瞬を越えて行け/小林 柳
 
褪せるまで
固く指を閉じる

戸惑う自分にやるせなく
ポケットの中に手を突っ込めば
途切れたままの言葉が
皺だらけで転がっている
いつか手紙を出すとき
きっと書くなんて言い訳をした

現在は溶けて消えてゆく
ただ続いてゆく日々の中
一切全てが
吸いこまれては過去になる
疑問と不安だけを
ぼろぼろとこぼして

前も後ろも無い
消えてゆく今
生きているこの場所にしか
俺はいたくない、けれど

忘れられない悲しみよりも
消えてゆく優しさで在りたいから

もう行かなければいけない
その時には
悲しみを一緒に連れて行こう
思い出も半分貰ってゆこう

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