遠雷/ホロウ・シカエルボク
乗り込んだ車両には僕らだけだった
窓の外を流れてゆく
二度とはない故郷を見ながら
君は涙をこらえていた
長期滞在型の安ホテルの
ただ座るために生きてるみたいな女主人に
しばらく暮らせるだけの金を払った
一年かけて溜めこんだ金額には
未来を微塵も不安に思わないだけの力があった
小さなベッドにふたりで寝ころんで
頬笑みあいながら眠った
天国を手に入れたみたいだと思った
目覚めたとき
君の寝顔がそこにあるのだとそう考えたら
僕は苦労してレストランの洗い場に滑り込み
君は画材屋の店員になった
僕らは毎日きちんと仕事に出か
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