世の中がどんなに変化しても、人生は家族で始まり、家族で終わる/吉田ぐんじょう
 

クラスメイトの男の子にファーストキッスを
奪われてしまったショックで もう二度と外へ出ない
と誓った

そのためか翌日から兄のからだ全体は
いつの間にか発生した
分厚い繭につつまれて見えなくなった

あれからそろそろ十年が経つ
あの中で兄が何をしているのかは知らない
ときどき兄の歌うような声が聞こえてくるのだが
その声は甲高くてちっとも成長していないようだ

深夜
足音を盗んで台所の片隅
ふわふわと膨らんだ繭の前へ行き
声を落して囁いてみる
にいさん
あなた大人になるのやめたの
返事はない
もしかしたらわたしは
兄とは会えないかもしれない
もう二度
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