世の中がどんなに変化しても、人生は家族で始まり、家族で終わる/吉田ぐんじょう
ている
隙間にそっとあてたわたしの黒目がとらえたのは
父の椅子には父とよく似た少年が
母の椅子には母とよく似た少女が座っている光景だった
二人は肩を寄せ合ってごく小さな音で
サイモン&ガーファンクルのレコードを聴いていた
ああそうか
幼かったけどはっきりわかった
かれらは取り戻していたんだ
夜の寝室で
誰も知らない植物を育てるように
慎重に静かに生き直していたんだ
どきどきしながらそっとふすまをしめた
見てはいけないものよりも もっと見てはいけないものを
見てしまった気がした
生きるって怖い
ということを初めて知った夜だった
・
兄はある日
[次のページ]
戻る 編 削 Point(53)