世の中がどんなに変化しても、人生は家族で始まり、家族で終わる/吉田ぐんじょう
 
ている
隙間にそっとあてたわたしの黒目がとらえたのは
父の椅子には父とよく似た少年が
母の椅子には母とよく似た少女が座っている光景だった
二人は肩を寄せ合ってごく小さな音で
サイモン&ガーファンクルのレコードを聴いていた

ああそうか
幼かったけどはっきりわかった

かれらは取り戻していたんだ
夜の寝室で
誰も知らない植物を育てるように
慎重に静かに生き直していたんだ

どきどきしながらそっとふすまをしめた
見てはいけないものよりも もっと見てはいけないものを
見てしまった気がした
生きるって怖い
ということを初めて知った夜だった



兄はある日
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