世の中がどんなに変化しても、人生は家族で始まり、家族で終わる/吉田ぐんじょう
その部屋は
布団を畳んだあと書斎にもなった
書棚には広辞苑と人間交差点の四巻
それから母の集めたこまこまとした主婦のための雑誌の付録や
珈琲の空き瓶にためられたいろいとりどりの釦が置いてあった
両親がいなくてさびしいときは
こっそり書棚をあけて紺色の釦を口へ入れ
かろかろ言わせながら母の机で居眠りしたりした
両親は毎日必ず午後九時までには寝室へ入った
必ず二人だけで入るうえに
子供は絶対こないよう言い渡されていた
それなのに一度だけ
禁を破ってこっそりふすまの隙間から
盗み見したことがある
両親の寝室はやわらかい杏色の光に満たされていた
今でもよく覚えてい
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