あのとき、こころはきずだらけだったのだと。/ホロウ・シカエルボク
 
困らせることが出来ただろうし、哀れに感じて(例えばエスプレッソを全部飲み終わるくらいまでは)ここにいてくれたかもしれない。だけどわたしにはそれが出来なかった。きっと、わたしはそういうタイプの人間なのだ。阿呆みたいに呆然としてみることで、あらゆる感情のタイミングをずらしてしまうのだ。子供の頃に遊んだ数合わせパズルをわざと間違えるみたいに。思えば昔からそうだった。ああ、そう言えばそうだった、という風にしか自分の心を認識したことがなかった。そうなのだ。わたしはきっと追体験でしか、自分の心を知ることは出来ないのだ、きっと。わたしは気が済むまでテーブルの前に立ちすくんで、次第に薄れてゆくジタンの煙と、エスプ
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