いきかえり/小川 葉
秋の風と一緒で
乾いたものの隙間からまだ形あるものへと
秋の風はすべてを通り抜けていくので
おそろしいとさえ思いました
帰りのバスに乗ろうとすると
芋煮会場で雇われている老女が
わたしを見るなり手を握りしめ
そうして千円札を一枚
その手の中にねじこんで去りました
老女はすぐに仕事にもどってしまったので
わたしは唖然として立ち尽くしていました
もう出発するのだと
クラクションを鳴らす音に気づくまで
その働く老女を見つめたまま
ずいぶん長いこと忘れていた記憶を思い出しながら
くしゃくしゃになった千円札を握りしめ
立ち尽くしていました
遠い過去にもこれと同じことが
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