いきかえり/小川 葉
 

確かにあったのでした
あの頃のままの小さな体が西日にあたり
前よりも長い影がどこまでも伸びていきました

そこまで語り終えると
老女はまた深い眠りについてしまった
ある病室で
この見知らぬ老女を看病していることは
偶然ではないような気がしていた
呆けてしまっているが
語ることのすべてが
わたしが経験してきた記憶とぴったり一致する
この老女がわたし自身のような気もしてきて
窓をあけるとやはり秋の風が肌を通り抜けていくのだ
それがとてもなつかしいのだ

母さん
わたしはけっきょくあなたには会えずに
今も見知らぬ老女を看取っています
あなたは遠いむかしに死んだ
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