想起の中で/かんな
 
心、あなた負けたわね

落ちてくる微少の雨粒
大きな傘で跳ね除ける、ふたり
とぼとぼと、踏みしめるコンクリート
こぢんまりとした店を探す、あなたが、そんな夕暮れ時
座敷のあるタイ料理屋の、
物憂げな空気に吸い込まれた
腹を満たす、生春巻き
ジャンケンをして、負けた方が唐辛子を食べる、罰ゲーム
子供じみたことで、笑い合う、ふたり
さり気なく
大事に思っていますよ。
その一言はどこまでも上空へ、は逃がさない
捉まえて、放さない、だから
わたしとあなたと
あの夜に小さな祈りを灯さずにいられなかった


一年前の
着信履歴をかき消す瞬間の、

駅の東口を出たとこ
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