「ヴィヨンの妻」太宰治/小川 葉
男主導の戦争が、その時代に終焉を迎えたように、
男主導の経済も、現代に終焉を迎えたのである。
そんな時代に、女性ほど強い生物はないのであるが、
しかし現代、戦後の大谷の妻ほどに、希望に満ち溢れ、
絶望的な逆境をも笑い飛ばすほどに、
すべてをゆるすおおらかさ、前向さ、しなやかさが、今の女性的意識にあるだろうか、という、
今太宰の作品が満を持して映画化された理由は、生誕百年であると同時に、
太宰が生きた時代と、とてもよく似た現代における、
あらゆる問いかけにもなっているはずだからだ。
安っぽい幻想で、誤魔化されてきた私たちにも、
安っぽい幻想で語ることしか
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